SXSWの期間中は5万人もの人が訪れるというオースチン。オースチン空港の到着口では、タクシー待ちの長い行列ができていた。会場付近の道路は閉鎖されているところも多く、時間帯や場所によってはかなり渋滞するので、車で乗り入れるには覚悟が必要だ。また公共交通機関もあまり発達していないかわりに、来場者の足として様々なオプションが用意されていた。

封鎖された道路を走るPedicab

あちこちに点在する会場間の移動には、無料で利用できるシャトルバスがある。自転車も、市営のシェアサービスであるAustin B-Cycleをはじめ、様々なシェアやレンタルのシステムが利用可能だ。市街は自転車用レーンが整備されており、名物の自転車タクシー・Pedicabもここを走る。難しい事前手続きや追加料金の不要なカーシェアリングサービス「Car2Go」もある。

自転車レーンはPedicabも走れるほどの幅がある

オーナーの愛を感じる

街の各所に見られたレンタルやシェア自転車

今回は会場から少し離れたところに宿をとったため、今年からSXSWの公式パートナーとなったLyftに連日お世話になった。規制の問題から、Uberとともにオースチンから一度撤退していたが、昨年返り咲いた。会場近くには運転手が車を停めて休んだり、ソーダを無料で飲むことができる(さすがにビールはないそう)仮設のLyftドライバー用オアシスもあった。

Lyftドライバー用の仮設オアシス

オースチンにはおしゃべり好きで親切な人が多いというのが到着以来の印象だった。このLyftのドライバーたちも、はるばる東京からやってきた私たちに親しげに話しかけ、気候や植物、珍しい鳥や自慢の店など、地元情報をあれこれ教えてくれた。SXSWにあわせてサンアントニオからやってきたドライバーもいれば、根っからのオースチンっ子も。どのドライバーもオースチンやテキサスが大好きで、このイベントを誇りに思っているようだった。一人の例外を除いて。

会場近くは夕方に向けて渋滞が激しくなっていた。帰りの車をリクエストをしたものの、すぐそこにいるはずがなかなかやってこない。ほどなく泣きそうな声のドライバーから電話が入り、「渋滞で動けないので、数ブロック先に停まっている自分の車まで来て欲しい」とのこと。土地勘のない私たちも不安に思いつつ、なんとか彼女の白い車を見つけた。

車に乗り込むと、ドライバーは「オースチンにはついさっき来たばかりで」と、私たちに何度もお詫びをしながら、「テキサスは本当に嫌い。でも私の住むダラスよりはオースチンの方が何倍もまし。さっきも後ろのドライバーが進路を譲ってくれたし、クラクションも聞こえないし」と話しはじめた。グアム出身で、5年前にわけあってダラスにやってきた。でもテキサスの暮らしに耐えられず、全てを捨てて先週タイに引っ越す予定だった。しかしそのことを知った両親が、腎臓の悪い娘を心配して猛反対。断念せざるを得なくなった。運転手はしたくてしているわけではない。でもLyftのお客さんは他社のお客さんより私を人間扱いしてくれる。そんな話を聞いているうちに目的地に着いてしまった。気の利いた言葉もろくにかけられなかったが、最後に「話せてよかった」と言ってくれた。

わずか20分ほどの時間だったが、車中で同じ空間を共にする、ということを改めて考えた。車の中では普段言いづらいことが言える、という人もいるだろう。このドライバーも、一期一会の相手だからこのような話をしてくれたのかもしれない。自動運転車の普及が現実のものとなろうとしている今、「人との関係」にどのように影響を与えていくのか、といったことに思いを巡らせた。