3日間の会議の中で最も盛り上がりを見せたセッションのひとつが、Uberの発表だった。*
会議の中核テーマのひとつでもあった「エスノグラフィとデータ分析」を組み合わせたリサーチのプロセスから、提案、実施、さらに成果を実証する効果測定にいたる発表には、そこまでやりとおす難しさをよく知る専門家の集まりだからこそ、惜しみない拍手が送られた。
テーマはuberPOOLのサービス更新。アプリ上で複数人を集めて相乗りさせるサービスだ。一人一台の自家用車にかわる手軽なシェアライド普及に向けて、よりよいユーザー経験を提供することが目標だ。
まず23人のユーザーインタビューと同行観察から、さまざまな移動シチュエーションの中で「いつ、なぜ、どの乗り物を選ぶか」の判断にまつわる気持ちや条件を聞きとり、その判断プロセスを描き出した。そこでは機能・情緒・意味にわたる多種多様な要因の複雑なトレードオフによって判断が行われていることが分かった。
さらに多数の要因の中からカギとなる組み合わせを得るために、今度は定量的な調査分析(MaxDiff分析とコンジョイント分析)が用いられた。最終的には「合流場所までの徒歩距離」「待ち時間」「費用」など5つの指標を絞り込み、ユーザーの状況に合わせた最適な組み合わせが導かれた。プロセスの中でステップごとに、定性と定量を組み合わせて進められていることが印象的だった。
さらに秀逸だったのが、そこから提案されたアプリのモデルだ。ユーザーにすべての情報を開示して判断をあずけるのでもなく、1つの答を一方的に押しつけるのでもなく、ほどよい説明と選択肢の提示によってユーザーの納得感をつくり出す。ユーザーへの理解と共感が感じられる設計は、エスノグラフィのインプットが最後まで生かされていることを感じさせた。
リサーチの手法が高度になり複雑になることは、ときにプロセスや結果を共有する上でのハンデともなる。そんな中で手法をどう組み合わせて活かすか、結果を共有し、具体的提案につなげるか、取り組み全体のデザインにますますセンスとクリエイティビティが求められていることを痛感した。