毎年3月にテキサス州オースチンで開かれるイベント、SXSW (South By Southwest)2018に、当社も満を持して初参加した。音楽や映像の祭典として名高いこのイベントだが、カンファレンスや展示などを通じてテクノロジー業界の最新動向を知ったり、ネットワークを拡大するという目的にも、貴重な機会を提供している。この後何回かにわけて、そんなSXSWの雰囲気をお伝えしたい。

5日目に行われたGoogleの自動運転車で知られるWaymoのCEO、John Krafcik氏のセッションは、今回出席したセッションの中でも特に充実した内容で素晴らしいものの一つだった。メイン会場であるコンベンションセンターの中でも一番大きなホールにも関わらず、開始前から入場待ちが出るほどで、アメリカ国内外からの自動運転車に対する期待と注目が伺える。ホスト役を務めるHBOの記者、Evan McMorris-Santoro氏との息があったテンポ良いトークも手伝って、みるみる聴衆はセッションに引き込まれていく。

Googleのプロジェクトとして2009年に始まった自動運転車の開発は、2015年よりAlphabetの独立子会社として生まれたWaymoに引き継がれた。Waymoでは公道での実証実験を本格化、現在もアリゾナ州フェニックスにおいて引き続き「Early Rider Program」による実験が行われている。

自動運転車といえば、2015年の全盲の方を乗せた完全自動運転車の公道走行実験の成功に象徴されるように、誰でも安全に移動ができる未来、という側面が一番注目の要素だろう。実際、この実験のときには、文字通りほぼ全社員が、リアルタイムでモニターを期待と不安の入り混じった気持ちで見守っていたそう。

別の側面として、実際に米国の登録されている乗用車のうち、95%は稼働しておらず、また走っている車の75%はドライバー一人のみが乗車しているというリサーチ結果を紹介。ライドシェアに対する提案としても、社会に対する貢献度は大きいということを聴衆にアピールした。

しかしまだまだ「自動運転」に対する不信感や不安感からくる壁は厚い。Krafcik氏はWaymoのミッションのひとつは「世界においての(自動運転車に対する)知識を深めること」だと説明した。実際に氏の母親も、最初は息子がなぜこのような仕事をするのか全く理解できなかったそう。しかし半信半疑な母親に実車を経験してもらうと、やがて「ジョニー、この車はもう少し早く走らないの?」との言葉が飛び出すほど、その体験に順応した。多くの人にその「未知の体験」をしてもらう、ということが欠かせないのは間違いなさそうだ。

もちろん課題も多い。オーディエンスからは「自動車業界を排除することにはならないのか」という質問が寄せられた。これに対しKrafcik氏は、既にWaymoはAVISやLyftなどをはじめ、幅広い企業とのパートナーシップを組んでいるとし、業界を排除するのではなく、新たなレイヤーを加えるのだと説明した。またトラックやタクシー業界といったロジスティクス関連の業種についても、社会的責任を果たしていく方向だと話した。

また、「trolley problem(トロッコ問題)」に関する質問も出た。「制御不能になった場合、自分がハンドルを切ってその先にいる1人を轢くか、ハンドルを切らずにそのまま進行した先にいる5人を轢くか」という難題には、簡単に答えるのは難しいとし、言葉を選びながらも「誰が公道でより弱者であるか」といった視点で優先順位をつけるというひとつの考えを述べた。

現在は実証実験のため、車内外は原則として監視下におかれている。ホストのSantoro氏からは「ズバリ聞くけど、車内で性行為をすることは可能なのか?」という質問も。これにはKrafcik氏も聴衆も大笑い。「これまでそんなことは起きていないけど」と断りながらも、「プライバシーを守るということはもちろん重要だが、今は車の安全のためにモニタリングが欠かせないことを理解してほしい」と答えた。

2028年までに空港における自動運転車の送迎サービスが実現している可能性は100%、との強い言葉に、夢のような未来が確実に現実のものになろうとしていることを聴衆の誰もが実感したこのセッション。途中立ち上がる聴衆はほとんどおらず、最後にはスタンディングオベーションも起こり、Krafcik氏が率いるWaymo開発に関わる全ての人への賞賛が印象的だった。

会場出口では、WaymoオリジナルのGoogle Cardboardがギフトとして配られた