海外の専門家会議でよく見られることだが、プレゼンターの発表と同じくらい、時にはそれ以上に、コーヒーブレイクやランチブレイクのコミュニケーションを大事にする。今回も朝食、ランチ、日に2度のコーヒーブレイクそれぞれに、彩りも美しい豊富なメニューが供され、会話に花が咲いた。参加者はせっせと飲んだり食べたりしながら、じつによく喋る。こちらもついさっき聞いた興味深いセッションの登壇者に質問をぶつける機会なので、人気のある人のまわりに人だかりができるのはいずこも同じだ。
1日目でうっすら気になっていたキーワードが、ランチでおしゃべりした相手から再度飛び出した。「異文化」である。具体的に紹介された事例の中でも、ヨルダンの小規模事業者のためのマイクロファイナンスや、インドネシアの高リスク妊婦のサポートといった、文字通り地元文化の理解から始まるプロジェクトの紹介もあった。中国のコンサルタントの発表では、サービスデザインに関わる複雑な要素の相互関係をクライアントに説明するのに、五行思想になぞらえるとすんなり受け入れられたこと、面子や組織内の上下関係を重視する文化への配慮がいることなど、それぞれの文化に合った導入のしかたが紹介された。
こうした地域文化の話題以上に印象的だったのが、企業や自治体などにとっての「異文化」としてのサービスデザイン、という視点だ。1日目にも、SpotifyやGoogleといったネットサービス企業の発表で、サービスデザインという視点を社内文化になじませ、受け入れてもらい、じっさいに役立てるための奮闘が、きわめて具体的なティップスとともに紹介されたのが印象深かった。2日目の発表でもあちこちで「デザイナーは自分のツールやスタイルにこだわるべからず」といった発言が耳についた。地域文化にせよ企業文化にせよ、頭ごなしに否定せず融和していくという姿勢。基本となるのは、自分がよいと思うものを一方的に押しつけるのでなく、相手を受け入れる謙虚な姿勢だ。それはユーザー中心、人間中心を旨とするサービスデザインの、ひとつの矜持でもあるのかもしれない。
(写真はランチサービスの陽気なスタッフ。カメラを向けたら、即このリアクション)