丸2日間、メンバーズデイを含めると3日間のカンファレンス最後のキーノートスピーチは、それまでとはひと味違っていた。Dominic Wilcox氏はデザイナー/アーティストを自称し、風刺のきいたプロジェクトやアイデアを社会に投げかけ、クリエイティブな思考を引き出す幅広い活動をしている。

紹介されたプロジェクトでは、蚤の市で手に入れた不要品を組み合わせて「用途のわからない器具」をいくつも作って展示し、役者を雇って「用途不明の拾得物」として紹介させ、一般の人にそれが何なのかの説明を考えてもらう。またその「不思議な発明品」をインスピレーション源として小学生に手ほどきし、ワークショップで子どもたちが「発明」したものの中から、地元の製造技術を持つ人たちをつなぎ、優れた作品を実際に作ってもらう。参加した子どもたちが「こんなに面白いことがあったなんて!」と目を輝かせる。

それまでの発表で話題となった新ビジネス形態や社会的課題とはがらりと雰囲気を変えたこの発表は、拍手喝采を浴び、最後はスタンディングオベーションとなった。主催者の総括スピーチでも「サービスデザインがビジネスに接近しすぎると、デザインの原点である面白がる精神、他人を受け入れ、ともに楽しみ、ともに価値をつくり出す原点を見失ってしまう、それを思い出させてくれたと」と絶賛だった。

総括でも引用され、ひときわ印象的だったのが「アイデアを出すときは、最もばかばかしい、最低のアイデアを最初に出す。そうすれば何でもありになるから」という言葉。実は「完成度の高い方法論や提案で相手を圧倒しても意味がない」「自分たちの弱みをさらすことが、相手(ユーザーであれクライアントであれ)から引き出す秘訣」といった言葉は、他の発表者からも何度か出ていた。サービスデザインを徹底してコラボレーションとして実現していこうとする姿勢が、あらためて実感されたひと幕だった。