EPICは、毎年世界をめぐって開かれるエスノグラフィ実務者の国際会議。今年のロンドン開催には、インフィールドデザインからも3年ぶりの参加となった。

例年、エスノグラフィという魅力的な手法をめぐってさまざまな立場の同業者が集まり、先端情報や問題意識、ときにはぼやきを共有する、和気あいあいとした集まりだ。

今年のテーマは「ビッグデータ」。一見、少数の現場をつぶさに観察することを旨とするエスノグラフィとは相反するようにも見えるトピックだが、初日から「エスノグラフィの情報は、小さいのではなく濃い」「情報技術の進展は、エスノグラフィにとってはツールの変化というより新しいフィールドの出現」「ビッグデータも現場観察も、同じ社会と人間という対象を扱うもので、対立するものではない」などの議論が噴出した。

もうひとつ印象的だったのは、医療や金融、社会的テーマを扱う事例などを中心に「信頼」というキーワードが何度も耳に入ってきたこと。「信頼」はさまざまな場面で重大な意味を持つが、単純に測れるものではない。実際に「信頼」が生まれるときの人の気持ちを理解することもまた、エスノグラフィに求められている課題ではないか、と。

実は今年の影の主役は、会場の英国ロイヤル・インスティテューションかもしれない。科学技術が未来を拓いた19世紀のはじめから現在まで、時代の変化を見てきた建物の中で、20世紀後半からの枠組みを破る新しい問題意識が語られるのも小気味よい。